藤沢周平の「闇の穴」を読みました。7作からなる短編集で、昨年観た映画「
小川の辺」の原作も収録されています。映画を観てから一年経って、漸く原作を読みました。映画は作品世界を比較的忠実に映像化した印象です。
「小川の辺」まではいつもの調子で読んでいたんですが、3作目の表題作「闇の穴」あたりから様子が変わってきました。これまで読んだ作品は江戸という時代の中で懸命に生きる下級武士や町民の情愛やひたむきさが綴られ、人間っていいよね、という読後感が残ったんですが、この短編集は人の持つ闇の部分が鍵になっていて、人間って恐ろしいと思わせます。特に「闇の穴」はえもいわれぬ不気味さを漂わせるラストがたまりません。続く「閉ざされた口」と「狂気」は一見善人そうな男に潜む欲望が描き出され、最後の「荒れ野」と「夜が軋む」は女の情念を民話風に描いて、これまたコワい。民話というより、怪談というべきでしょうか?「夜が軋む」は数年前、西陣ファクトリーgardenで行われた林英世さんのひとり語りで聴いたことがありました。一人称で語られるこの作品、冬の山村での出来事ですが、ゾクッとして、暑い時期に読むのにぴったりでした。