昨年12月に読んでいたのが宇江佐真理の「無事、これ名馬」。江戸の火消し「は組」のかしらである吉蔵のところに武家の息子、たろちゃんこと太郎左衛門が「男の道を教わりたい」と弟子入り志願。剣術の試合には勝てないけれど、品行方正で心優しいたろちゃんが主人公といえば主人公なんだけど、話は寧ろ吉蔵を軸に、娘のお栄や頭取りの金次郎などの町人たちの日常が描かれていて、時代ものではあるけれど、ハラハラするような劇的な場面はなし。そのあたりが女性らしいかなと初めての宇江佐作品を読んで思いました。どちらも一作ずつしか読んでないけど、
澤田ふじ子より宇江佐真理の文章の方が好みかな。
「無事、これ名馬」は剣術も学問もイマイチだれど、大した病気もせず、人と喧嘩して傷を負ったこともなく、今後も平凡ながら幸せな人生を送るだろうたろちゃんを駄馬という人もあるだろうけど、親にとってはかけがいのない名馬だという父の思いをタイトルにしたもの。みんながみんな無難に生きたんじゃ面白くないけど、真面目に生きることがダサい、はみ出すことが格好いいというのは違うよね、と思う。真面目でいいじゃん。金次郎が剣術をしこんでいたという泣かせるエピソードも交えて、意気地のないたろちゃんに最初は苦笑していた吉蔵にとっても、かけがえのない存在になっていたはず。どの人生も素晴らしいと思うのでした。