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「聖の青春」

「聖の青春」_f0119179_05284.jpg大崎善生は好きな作家の一人だけど、どうも最近の作品は読んで失望することが多く、それなら初期の出世作をと未読だった「聖の青春」を読みました。棋士・村山聖の一生を描いたノンフィクション。大崎氏のノンフィクションは「ドナウよ、静かに流れよ」も共感するかどうかは別にして、なかなか読みごたえがあったので、これも面白いのではないかと。読んでみると期待以上でした。結構分厚い本なんですが、将棋は門外漢のモモ母もどんどん引き込まれて行きました。
幼い頃からネフローゼという重い腎臓病で入院を繰り返し、病室で出会った将棋に魅せられ、17歳でプロ入り。名人を夢見ながら、将棋界最高峰A級に在籍したまま29歳で亡くなった村山聖。いわゆる羽生世代の一人だそうですが、存命中は彼のことを知りませんでした。読みながら感じるのは、大崎氏の優しい眼差し。故人の心情は実際はわからないし、フィクションの要素も多分にあるんですが、それゆえに村山は昇華され、彼の本質が描き出されているようです。ネフローゼでむくんだ風貌ゆえ肉丸君とか怪童などと呼ばれ、八段になっても漫画や推理小説、CDに埋め尽くされたゴミ屋敷の様なアパートで暮らし、誰にでも本音で話し、20歳をこえても母親にわがままを言う。実際の彼に会うと、そうした表面だけとらえて、ちょっと苦手に思うかも。でもボサボサ頭でなかなか散髪しなかったのは、子供の頃から死が身近にあった彼の無常観からだったりして、この作品を通して、文字通り命懸けで将棋を指した彼の本質に触れられて良かったと思います。大阪で師匠と過ごした単調だけど楽しい日々が愛おしい。大崎さん、こういうのが読みたかったんです。これからもこういうのをお願いします!
by mmcmp | 2013-11-20 01:30 | カフェ読書 | Comments(0)
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