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「漁港の肉子ちゃん」

「漁港の肉子ちゃん」_f0119179_040249.jpg11日で今の京都駅ビルが開業して、もう20年だそうです。尖閣諸島が国有化されて5年、アメリカ同時多発テロから16年、そして父の87歳の誕生日でもありました。
西加奈子の「漁港の肉子ちゃん」を読みました。個性的な表紙。元テレビディレクターOさんに頂かなかったら知らなかったし、西加奈子って「蛇にピアス」の人だっけ?(いや、それは金原ひとみ)と思いながら読み始めました。悪い男に騙されて来た通称・肉子ちゃんは、まん丸に太った北の港町の焼肉屋で働く明るい38歳。作品は娘のキクりんの目を通して語られるスタイル。地方都市特有のコミュニティの温かさと、その一方で早く大人になって街から出たいという鬱陶しさも抱く聡明で多感なキクりんの語りが、肉子ちゃんや焼肉屋の主人サッサン、白亜の豪邸に住むマリアちゃん、すぐ変な顔をする二宮などの同級生を生き生きと描き出しています。起承転結とかヤマ場とかいうのがなく、小さなエピソードを重ねて淡々と肉子ちゃん母娘の暮らしが綴られて行くのは、今どきの小説ですね。まぁ昭和のヒーロー、ヒロインみたいな劇的な人生を歩む人はごくわずかで、大多数の人生ってそういうものですね。平凡な暮らしの中で肉子ちゃんはどんどん太り続け、キクりんは日々成長して、今の自分はもう二度と現れることはない。作品は作者が宮城県石巻市に一泊旅行をしたのがきかっけで生まれたそうで、人だけでなく街もずっと同じ形でいられないことを東日本大震災で痛感したと石巻に同行した日野淳は解説で書いています。いつかこの世から消えていくとしても、思いや「ここにいた」瞬間を残すことは出来る、それが小説を書くことではないかと作者は言います。作中、キクりん以外の「私」が語る場面が2回あり、1つはキクりんが生まれる時のこと。もう1つが水族館にいるペンギンのカンコちゃんの独白。遠い海から日本に連れて来られたカンコちゃんが語る数ページが、何故だか印象に残っています。
by mmcmp | 2017-09-12 01:42 | カフェ読書 | Comments(0)
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