2017年 10月 29日 ( 1 )

「理由」

f0119179_23461380.jpg宮部みゆきの「理由」を読みました。読み出してすぐ、これは「火車」と並ぶ読み応えのある作品だなと思い、読み進むと更にその思いを強くしました。荒川区の超高層マンションの1室で起きた殺人事件を取材スタイルで描いた直木賞受賞作。当初は2025号室を所有する小糸家が犠牲になったと思われたのが、小糸一家は妻の実家にいて無事。いつの間にか小糸家に代わって2025号室に住み、犠牲になった4人は家族だと周囲に見られていたのに、実はみんな赤の他人。早い段階で「あの人を突き落とした」と告白するのは10代の未婚の母。話の展開を追うだけでも、読み応えがありました。
それ以上に宮部みゆきの力を感じさせるのが、その手法。事件には目撃者、マンションの住人や管理人、不動産関係者、容疑者とその家族、犠牲者とその家族、2025号室所有者の親族や幼なじみ等、かなりの数の人が関わっていて、それぞれが仕事をしたり通学したり、家族ともめたり、家の事情を抱えたりして日常生活を営んでいる。その背景をインタビューやドキュメンタリー風に丁寧に描いているので、リアリティがあります。容疑者が滞在していた簡易旅館「片倉ハウス」を経営する一家の娘が交番にやってくるという、事件から遠い人達の描写から始まる冒頭も見事。事件と無関係の片倉家の事情もよくわかります。「火車」がカード破産を描いたのに対し、「理由」の鍵になっていたのが占有屋。不動産競売物件に居座って、落札者に立ち退き料を要求する占有屋の存在を初めて知りました。無理して高額なマンションを買った夫婦の離婚、そびえ立つ超高層マンションが虚栄心の象徴の様にも思え、現代社会の歪みや幸せとは何かをも考えさせられる力作でした。
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by mmcmp | 2017-10-29 23:36 | カフェ読書 | Comments(0)