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「暗殺の年輪」

「暗殺の年輪」_f0119179_0235493.jpg「暗殺の年輪」を読みました。藤沢周平の文壇デビューから直木賞を受賞するまでの初期の5作品を集めた短編集。直木賞を受賞した表題作も良かったけど、「蝉しぐれ」に少し似た設定で「蝉しぐれ」の方がより深いので、モモ母は最初の「黒い縄」が一番印象的で好きでした。このところ「本所しぐれ町物語」や「橋ものがたり」など町人のくらしをしみじみ描いたものを続けて読んでいたので、久々の劇的な展開にドキドキ。そうそう、元々藤沢作品のこの迫力に魅せられたんだっけと思い出しました。
嫉妬深い姑、不甲斐ない夫、出戻りのおしのがいつまでも実家にいることを快く思わない母と気の進まない縁談を持ちかけてくる兄。「ここにいても何の希望もないの」と言っていたおしのの、この後を考えると切ない。自立する術のないおしのも悲しいけれど、生きていくために夜鷹になった「溟い海」のお豊も悲しい。では男はと言えば、いくら剣の腕が立っても権力闘争の駒でしかない下級武士や病気の妹を養うために後ろめたさを感じながら下っ引きを続ける版木師、相手が岡っ引きでは勝ち目がないと諦めるばくち打ちなど、やっぱり男たちも不本意な立場に身を置かざるを得ない。そんな中で「ただ一撃」の範兵衛はやるせない気持ちを一瞬吹き飛ばしてくれるんですが、後には再び老いた日常が続くわけです。それにしても勢いのある初期作品でも老いた主人公たちが登場していて、この時点で既に藤沢作品独特の世界が出来上がっていたんですね。いずれまた読み返したいと思う1冊でした。
by mmcmp | 2010-11-08 01:28 | カフェ読書 | Comments(0)
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