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「うたかたの」

「うたかたの」_f0119179_2174389.jpg永井路子の「うたかたの」を読みました。一人の男の一生と彼に関わる女性たちを描いた連作ですが、男は本名を隠しているため、毎回違う名前で登場、作品ごとに関わる女性も変わり、掲載紙も複数にわたっているので、発表時に連作と気づいていた人は少なかったかのではないでしょうか。こういう手法がまず面白かった。才能を開花させようと江戸に出る世間知らずで自信過剰な青春時代から、地方では秀でていても江戸では全く通用せず挫折。地方でも自らの理想のため奔走するも逃亡の身となり、やがて世間の流れとは無縁の隠者となる主人公ですが、いずれも女性の目を通して描かれるため、晩年の心情は明らかではありません。6人目の女性が語る「薄闇の桜」は、男が既にこの世を去った後という設定でした。世の中を憂いながらも己の限界を痛感した男は、やがてすべてを達観したのでしょうか・・・?
ところで、最初の「寒椿」の美雪は、設定そのものは全く違うけれど、男を追って家を出ようと思う状況が藤沢周平の「暗殺の年輪」に収録された「暗い縄」を思い出させました。結論も全く違って、美雪が選んだ道は賢く現実的。その差は作者が女性だからではないかと思うんですが、モモ母が美雪の立場だったら、多分もう1つの愚かな道を選択して、破滅しそうな気がします。
by mmcmp | 2011-02-21 21:52 | カフェ読書 | Trackback | Comments(0)
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