小川洋子の「最果てアーケード」を読みました。小川洋子って現代作家の中で「文学」を感じさせる貴重な小説家だと思うけど、読んでて不協和音のような居心地悪さを感じてどうも苦手。
元テレビディレクターOさんから届いた「琥珀のまたたき」も
natsunoさんのレビューを拝見して、ちょっと尻込み。先月Oさんが送って下さったこちらを先に読んでみました。これはとっても好き、初めて読んで良かったと思える小川作品でした。
薄暗く狭い通路の「世界の窪み」のようにひっそりしたアーケード。店では義眼、ドアノブ、レース、勲章などがそれを必要とする人のためにじっと待ち続けています。遺髪でレースを編む女性、レモネードの入った魔法瓶が置かれた読書休憩室で百科事典の「あ」から順に読んでいく少女、元体操のオリンピック選手と偽る結婚詐欺の女性など、登場人物たちも不思議です。映画館からの出火が原因の火事で亡くなったアーケードのオーナーの娘が子供の頃からの記憶を語る形で物語が綴られ、前半は元気な子犬だったぺぺは、商品の配達に必ずついてきたのに、終盤ではドアノブを売るノブさんの傍で横たわる老犬に。それで経営は成り立つのかと思う非現実的な設定だけど、「
ある街角の物語」や
チェブラーシカの人形アニメを観るような世界が広がり、読んでいる途中で、ふと自分自身の記憶が蘇ってくるのです。「私」の母親が入院する病院を訪ねる場面では、母が手術のために初めて京大病院に入院した日に渡り廊下から病室の窓越しに見た母の痩せた背中を突然思い出して切なくなりました。アーケードで売られているのは「だれでも記憶の奥に持っているかえげえのない思い出と響きあうひっそりと美しいもの」(解説より)なのでした。