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「春から夏、やがて冬」

f0119179_2183254.jpg歌野晶午の「春から夏、やがて冬」を読みました。元テレビディレクターOさんから届いた文庫本の中で「先生のお庭番」と共に綺麗な表紙だなと思った一冊。初めての歌野作品で、推理作家だというのは読んでる途中で知りました。スーパーの保安責任者の平田は倉庫の奥の小部屋で万引きをした女性ますみに出会う。免許証から娘と同い年だと知ることから始まる「季冬」の章。「春夏」「春陰」「青嵐」など章が持つ美しい響きとは裏腹に話はどんより。
仕事熱心で平凡だけど家族と共に幸せに暮らしていた平田は、娘の突然の事故死で生活が一変。今の日本にはこういう生きる目標をなくした人が少なくない気がする。「自殺する人の気持ちがだんだんわかってきた」という東日本大震災の在宅被災者の諦観とか、転機となる出来事がなくても未来に希望が持てない若者とか。閉塞感の中、平田は終盤に予想外の行動に出て、その原因がますみが喫茶店に置き忘れた携帯電話に残されたメールなんですが、これが突っ込みどころ満載。矛盾だらけでおかしいでしょ!と読んでて思ったら、おかしいと判断出来ない心理状況こそが悲劇を招いた、平田は「視野狭窄に陥り、客観的な判断ができなくなった」のだと医師の小瀬木は考える。こういうのも推理小説っていうのかな? やるせなさばかりで、読後感はあんまりよくなかったです。
by mmcmp | 2019-03-18 03:00 | カフェ読書 | Comments(0)

「先生のお庭番」

f0119179_2211828.jpg朝井まかての「先生のお庭番」を読みました。表紙の美しさに惹かれたのと、朝井まかては「恋歌」がとても良かったので、今回も期待してました。そして期待通りでした。阿蘭陀から来たしぼると先生が日本に医術を伝えるために出島に薬草園を作ろうとし、その園丁を任された十五歳の熊吉。経験不足を補うように知恵を絞って工夫を重ねる熊吉に「よか薬草園だ、そなたはよか仕事する」と言うしぼると先生。異国の文化に触れ、しぼると先生を慕って集まる若者たちが熱心に学び、議論する様子に刺激を受ける熊吉の高揚感が伝わって、読んでいてワクワクします。でも夢のような日々はやがて終わり、まるでオセロゲームで黒から白に次々と変わっていくように、状況や先生像が揺らいでいくのは「恋歌」で弾圧した側が虐げられる側になったことに通じる劇的な変化。
思えば「シーボルト事件」とか「オランダおいね」とか言葉は知っていても、それは自分にとっては単なる記号のようなもので、その時に生きてその場にいた人たちのこと、当事者たちの心情に思いを馳せたことがなかったなと今更ながらに思う。もちろん、小説はフィクションだし、身近に感じたことは錯覚なんだけど、でも、幕末というのはそんなに遠い昔の話ではないんだなと晩年上方に移り住んだ熊吉とイネが再会する終章を読みながら、感じました。しぼると先生の奥方タキさんの再婚後の消息も気になる。教科書や歴史書に出てくるのは著名な人物だけだけど、熊吉のような名も無き人の行為がその後に大きな役割を果たしたり、時代に影響を与えることもあったんだろうし、これからもあるんだろうなと思うのでした。
by mmcmp | 2019-02-27 23:34 | カフェ読書 | Trackback | Comments(0)

「あの家に住む四人の女」

f0119179_22183233.jpgnatsunoさんのブログを拝見してから、ずっと読みたかった
三浦しをんの「あの家に暮らす四人の女」を読みました。谷崎潤一郎の没後50年を記念した企画で「細雪」が下敷きになってるとか。都内の古びた洋館に住む母娘と娘の友人たちの早春から盛夏を描いた物語。家は阿佐ヶ谷が最寄駅という設定ですが、杉並だったり善福寺川だったりと学生時代を過ごした場所が出てくるし、下北沢のマンションの近くにも当時は古い洋館がいくつかあったので、身近に感じられて楽しかった。佐知の母の鶴代の外出先は伊勢丹。偶然かも知れませんが、「大家さんと僕」の大家さんが行くのも伊勢丹で、今の東京の年配女性のお出かけ先って日本橋三越じゃなくて新宿伊勢丹なのねと思ったり。
前半は割と地味だったのが、突然「カラスの善福丸」だの「私」だのが出て来て、なんか唐突だなぁと思ったら、私の登場からは怒涛の展開。ドタバタ漫画のような盛り上がりを見せ、しかもその場面が意外にも泣かせるエピソードだったり。「風が強く吹いている」が青春を生きてる若い人から青春を懐かしむ世代まで幅広く支持されるのに対し、この作品は物語として面白く読んでも、共感する人はニッチというのか、限定されると思う。でも「30代以上」の「未婚」の「女性」の心にはかなり刺さる。片親や両親が他界したりしていると、更に愛おしく大切な一冊になるはず。モモ母にはすごく刺さりました。「それぞれの人に悪い行いや間違った選択はたくさんあったのだろう。これからもあるに違いない。だが、そのすべてを飲み込み、毎日は続いていく。それでいい。それがいいのだ」これも風強みたいにアニメ化して欲しいなぁと思ったら、ドラマになるようですね。抱腹絶倒のあのシーン、ドラマでうまく表現できるのか???
(余談ですが、風強アニメが10分でわかるダイジェストPVできてます。必見ですよ!)
by mmcmp | 2019-02-20 23:31 | カフェ読書 | Trackback | Comments(0)

「ビブリア古書堂の事件手帖」

f0119179_1181249.jpg知らない街で本屋を見つけると,記念に一冊買うことにしているというtweetがありました。素敵な習慣ですね。本を開くとその街の風景が蘇りそうです。
さて、三上延の「ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち」を読みました。このシリーズ、書店でよく見かけるなあと思っていたので、古本市の3冊で1冊交換に選んでみました。「人の手を渡った古い本には、中身だけでなく本そのものにも物語がある」と大輔はプロローグで言っています。確かに。岩波書店の「漱石全集・新書版」、新潮文庫の「落穂拾ひ・聖アンデルセン」など実際に出版された本をモチーフに繰り広げられる物語。本好きの読者の心をくすぐる設定ですね。三浦しをんの「月魚」も古書店を描いてましたが、作家たちにとっても古書の世界は魅力的なんでしょう、古書愛を感じます。読書家には常識なのかも知れませんが、新潮文庫には紐の栞が必ずついていること、その紐をスピンと呼ぶことを初めて知りました。ついてるのとついてないのがあるなと思ってたけど、講談社や中公文庫にはついてないのか・・・。で、本の世界を楽しく読んだワケですが、店主の栞子さんの推理があまりに直感的なひらめきすぎて、いかにも作り物っぽい。どうして判ったんだ?? って大輔は驚くけど、それはそのように作者が設定したからでしょ。例えば立花登の推理は説得力があるんですが、これは藤沢周平と三上延の力量の差なんでしょうか。残念ながら所詮はラノベだねと思ってしまう。シリーズを重ねるとその辺りは改善されてるのかな? 作品世界は好きなので、いつか続編も読んでみたいと思います。
by mmcmp | 2019-02-14 02:08 | カフェ読書 | Comments(0)

「人間の檻~獄医立花登手控え(四)」

f0119179_17133116.jpg統計不正を巡る調査、首相が第三者委員会の設置を拒否したと思ったら、根元厚労相はトカゲの尻尾切りした厚労幹部の国会招致を拒否。よっぽど真相解明されたらマズイんでしょうね。不正のせいで過少給付になってる人がちゃんと取り返したら400万円になる人が結構いるという指摘。そりゃ国民に知られたくないでしょう。
さて、藤沢周平の「人間の檻」を読みました。「獄医立花登手控え」シリーズ4、最終巻です。小伝馬町の牢獄にいる者、牢獄から出た者とその家族のあれこれを描いて楽しめましたが、早く「あの家に住む四人の女」が読みたくて、やや読み流したせいか、もう少し盛り上がりが欲しかった気もします。期待した柔道仲間の新谷弥助も最後に少し出てきただけだし。それでも動きのあるシーンの迫力や季節や時間を美しく描き出す情景描写は毎度のことながら見事で、自分も江戸時代にタイムスリップしたような気持ちになります。締めくくりの「別れゆく季節」は旅立ちにふさわしく、ここまで読みすすめて来て良かったと思える内容でした。「何かがいま終わるところだと思った。どこか猥雑で、そのくせうきうきと楽しかった日々、若さにまかせて過ぎた日々か終わって、人それぞれの、もはや交わることも少ない道を歩む季節が来たのだ」という登の思い。おちえと彼女の友達の成長は特にそう感じさせます。上方での新たな日々が登を医師としても人としても更に大きくさせるであろう、その後日談をもはや読むことが叶わないのが、少し残念でもあります。
by mmcmp | 2019-02-04 18:11 | カフェ読書 | Comments(0)

「太陽のパスタ、豆のスープ」

f0119179_0341095.jpgTカードだけでも不気味なのに、総務省が五輪のテロ対策の名目で家庭や企業のIoT機器(ネットに接続されたあらゆるもの)に無差別侵入し調査するって怖すぎませんか!? もうホント五輪なんてやらなくて良いです・・・。
さて、宮下奈都の「太陽のパスタ、豆のスープ」を読みました。「食堂かたつむり」や「雪と珊瑚と」など女性が食べ物に癒され、再生していくのは最近の小説の一つのパターンなのか、これも結婚式直前に突然婚約を解消された明日羽が主人公。またか・・と思いながらも宮下奈都は「羊と鋼の森」がとても良かったので、読んでみることに。失意の彼女に叔母のロッカさんは自分がやりたいことや欲しいものをドリフターズリストに書き出すことを提案。綺麗になるためエステに行ったり、鍋を買って毎日料理をしたり。青空マーケットで同じ職場の郁ちゃんが売っていた豆のラベルに世界の食糧危機のことが書かれていたことに驚く明日羽。一粒の豆を見て考えることの深さが郁ちゃんと自分ではこんなに違う、気づくことの出来なかった自分を情けなく思ってしまう。でも、幸せだとそんな自分にさえも気づけないよね。気づかないまま人生を過ごしたって良いけれど、平凡な母や兄が新たな挑戦をしようとしていること、母が毎日ご飯を作ってくれてた有り難さも、見つめ直したからの気づきだし、その意味ではショックな出来事も決して悪いことばかりではないのかも。でも、変な自己啓発セミナーや宗教にハマる人もあるからちょっと怖い。郁ちゃんやロッカさん、幼馴染の京など、明日羽の周りには良い人がいて良かったね、と思う。店を始めるパターンじゃないラストが良かった。ちょっと立ち止まりたい時に読むのがオススメです。
by mmcmp | 2019-01-27 01:15 | カフェ読書 | Comments(0)

「将棋の子」

f0119179_23121915.jpg元テレビディレクターOさんからオススメ本を送ったと連絡。早速届きました。「あの家に暮らす四人の女」もあって楽しみ★溜まってるレビューを書かないと・・・。という訳で、年末年始に大崎善生の「将棋の子」を読みました。プロ棋士を目指す「奨励会」の若者たちとその後を描いたノンフィクション。地方では大人を次々負かして注目された天才少年も、そんな人ばかり集まって来る奨励会では大勢の一人。昇段には年齢制限があって、夢破れて退会して行った者たち。大崎さんが将棋連盟で働いていた頃は高校に進学せず退路を断つ棋士も結構いて、他の世界を知らないまま30近くになって退会すると、そりゃ生きていくのは大変なワケです。
羽生善治がどうすごいかのかも初めて知りました。定石などの知識と研究の深さが最重要で、高度な技術を持つ者なら誰が指しても同じになるというのが羽生理論。以後、坂田三吉みたいな無頼派はいなくなり、メインで描かれる成田英二のように敢えて定石を勉強しない棋士は、もはや通用しない。医師から一時退院を許された余命わずかの母と奨励会を辞めた成田が、お正月にマンションで過ごす場面は切なかった。三浦しをんが「風が強く吹いている」を執筆したのは「努力神話について考えたかった、報われなかったのは頑張らなかったからだという考え方に納得がいかない」からだそうで、それは「将棋の子」にも通じると思うのですが、風強が一年間だけを描いたフィクションなのに対し、これはシビアな現実が何年も続いてf0119179_063642.jpgキツイ。それでも将棋がその後も彼らの大きな支えになっているのが救われます。藤井聡太七段の登場は、また将棋界を大きく変えるんだろうな。この本を読んだおかげで、棋士を見る目が変わりました。
by mmcmp | 2019-01-18 23:50 | カフェ読書 | Comments(0)

「下町ロケット」

f0119179_23151035.jpg昨年ですが、池井戸潤の「下町ロケット」を読みました。池井戸潤は京都の某店をモデルにした「かばん屋の相続」が青山二丁目劇場でラジオドラマ化されたりして、一度は読んでみたいなと思っていました。読んでみて、なるほどかつて「ブロジェクトX」に感動していたおじさん達が好きそうな作品だな、という印象。中小企業の佃製作所がライバル会社から特許侵害で訴えられたり、大手企業から特許譲渡を持ちかけられたり。顧問弁護士に専門知識がなく勝ち目がなさそうな時に元妻がやり手の弁護士を新たに紹介してくれるなんて話がうますぎるけど、窮地から一転、理不尽な訴訟を跳ね除ける展開に読者は胸がスーっとする思い。今度は大企業の圧力に屈しそうになるも、佃製作所の良さを認める人間が相手側にもいて、めでたしめでたし。
でもこれを読むおじさん達の現実は??「正義と法律は違う、法律に反しなければ何をしても良い」「世の中は圧倒的に大企業に有利」という現実に甘んじ、寧ろ加担する側になることが少なくないのでは?と思う。儲けや保身ばかり気にして道理や情のない相手を佃は「さもしい」と言うのだけど、これは言い得て妙。世の中「さもしい」日本人が増えたよね、と思う。でなければ森友問題なんてすぐ解決するだろうし、弱者切り捨ての政治が支持されるはずもない。小説の世界だけ正義感に溢れて、現実は飲みに行って愚痴るしかないとしたら、哀しいなあ。小説を読んだ後、ヤタガラス編のドラマを見たら殿村を談春さんが演じてるのが意外でしたが、こんなツイートも同感。小説では徹夜で残業はしてなかったはずながら、小説が人気でも現実が働きやすい社会にならないと意味ないのよね・・と思うのでした。
by mmcmp | 2019-01-06 01:48 | カフェ読書 | Comments(0)

「アンをめぐる人々」

f0119179_1110426.jpg冒頭にスミマセン、新規コメントの表示が出ていたんですが、コメント欄を開くと新たなコメントはなく、もしかしたら操作ミスで削除されたのかも・・と気になっています。最近コメント投稿したけど表示されてない、という方がおられましたら、申し訳ありませんが、再度書き込んで下さると嬉しいです。
さて、モンゴメリの「アンをめぐる人々」を読みました。これも「アンの友達」などと同様にアンは殆ど出て来ません。「虹の谷のアン」みたいに脇役でも登場すればタイトル通りの「めぐる人々」だけど、名前すら登場しない別作品に近い。おそらく作者はアヴォンリーを舞台にした別ものとして書いてるんでしょう。猫の話は表題作しか出て来ないのに「私の猫たち許してほしい」を猫本として売る商法を思い出しました。「めぐる人々」ならマシューの初恋とかギルバート少年の冒険譚、ダイアナ目線の学校生活みたいな話が読んでみたかったです。「アヴォンリーではだれもかれも他人のことなら残らず知っている」という信心深く善良な人たちだけど同調圧力が強そうな街で、自尊心を持って己の信じる生き方を貫く人を描いた作品集。未婚女性が「オールドミス」と呼ばれる時代にかつての恋人の話を捏造したら、同じ名前の男性が実在したという「偶然の一致」、母親の遺言を呪縛のように守って弟の世話をし続け、天然痘になった弟を献身的に介護する「没我の精神」などささやかな人生の中でその人の想いを強く感じる短編が綴られています。「平原の美女タニス」の「未開人」だの「混血種」だのという表現は原作執筆時と共に村岡花子による翻訳当時の価値観が現れていて、今読むとちょっと違和感があるけど、根にあるものは変わってないのかも。お話の世界だからこその展開とはいえクリスマスの集いで親戚に「失敗者」と言われたロバートを兄弟たちが様々なエピソードを披露して讃える「失敗した男」が好きでした。
by mmcmp | 2018-11-29 12:09 | カフェ読書 | Comments(0)

「愛憎の檻~獄医立花登手控え(三)」

f0119179_235931.jpg日曜にたまたまテレビをつけたらフジコヘミングのドキュメントをやってました。1999年に放送されたものだそうで、下北沢在住のフジコが駅前の市場で買い物をする光景が懐かしかった。自転車でシモキタの街をいくフジコさんをよく見かけると友人が言ってたっけ。今までそんなに良いと思ったことがなかったけど、音色の美しさに魅了されました。美輪明宏が正確に弾くのが良いならAIに演奏させれば良いとコメントしていて、個性的な演奏の良さが分かるようになったのは年を重ねたからかなと思って見ていました。
さて、藤沢周平の「愛憎の檻」を読ました。獄医立花登のシリーズも若い頃より年を重ねた方が心にしみるのではないかと思います。罪を犯して牢屋に入ることになった者とその家族の機微が、この巻でも丁寧に描かれていました。風景描写も素敵で巻頭の「秋風の女」では「西空に傾いた力ない日差し」に染まる町の情景が頭に浮かびました。4話の「片割れ」でカラシやお酒を使って怪我の手当をする当時の医療事情もきっと丹念に調査して描写されているはず。6話「影法師」に出てくる「練塀」って何? と思ったら、練った泥土と瓦を交互に積み重ねて築いた塀。「のばら珈琲」近くのお寺の塀がまさにそれです。文庫本巻末の中井貴一のインタビューも興味深かった。1982年にテレビドラマ化された時に立花を演じたそうです。ただちょっと残念だったのは、この巻では柔道仲間の新谷弥助の登場が殆どなかったこと。(四)では再び出てくるのか、従妹のおちえと登の関係は? 次の最終巻が楽しみです。
by mmcmp | 2018-11-14 02:55 | カフェ読書 | Comments(0)